筆者の思い込みかもしれませんが、映画を3回以上繰り返して見ることはなかなか無いことですよね?
でも僕はキャベツが好きで、静かな世界観が好きで、ある映画を何度も見返してしまいます。
今もアマゾンプライムで見ていますが、もうかれこれ7回目の視聴です。この映画(笑)
きっと映画や小説に詳しい人だと、ここまでで筆者が何の映画のことを言っているか当てられると思います。
何で今更、この映画を記事で取り扱おうと思ったかって?
映画は過去10年以内くらいなら、新旧じゃなくて作品のメッセージ性が強いものを観たい派だからです。
それと、作品の上映が2016年なので、今ならネタバレを書いても誰にも咎められないと思ったからです。
今日は映画を観ながら片手間で記事を書いていくので、取り留めのない内容一直線ですが、どうぞまだこの作品を見たことがない人はぜひ一度観てみてください!
If cats disappeared from the world
冒頭は「僕」の手紙から始まる。
視聴者へ向けたモノローグ(ひとり語り)。
その内容は遺書に代わるものだとも言う。
僕は30歳、田舎の郵便局員。
友達のツタヤではなくタツヤのレンタルDVDショップに顔を出す。(このあたりで時代背景も推察可能。)
僕はDVDの返却と同時に、タツヤから新しいDVDを受け取り店を後にする。
いつものカモメが鳴く海沿いを自転車で走る。
永遠に、そして将来が見えないような生活が続くような気がしていた。
ゴトッ!!カランカランッ…
猫用の缶詰が港湾のコンクリートに転がる。
何があったのかわからないまま、目が覚めた。
「脳腫瘍です。悪性です。」
医者はそう言った。
「僕、死ぬんですか?」
取り乱す脳内とは裏腹に、僕は落ち着いていた。
「あと何本好きなDVDを観られるんだろう。あと何冊、本を読めるだろう。シャンプーはまとめ買いしたばかりなのに…』
とか、そんなことばかり考えてしまっていた。
家に着くと、
「ミャオ〜」
キャベツの声がした。同時に、
「おかえりッ!」
!?
無論、僕の家には、家族もいなければ彼女もいない。
僕の目の前に見えている、僕と瓜二つの存在は、自分を悪魔だと紹介した。
そして、続けて言う。
「明日君は死んじゃうよ。今日はそれを伝えにきた。残念。」
僕が黙り込んでいると、
「死にたくないとかないの?」
悪魔は煽る。
「方法あるんですか?」
「ある取引をしてくれればいい、簡単簡単。この世界から何かひとつを消す。そのかわり1日の命をやる。それが条件だ。」
「消すって何を?」
不安そうな僕と裏腹に、悪魔がテンポよく続ける。
「いやいやあるでしょ、この世界はいらないものだらけだ。」
…
「わかりました。パセリで。」
責任感をにじませた表情で、僕は言った。
すかさず、
「ちょっとまって、選ぶのはこっちが決めるの。」
悪魔の腕を組みながら嘲笑する。
そこで、
「ピリリリリリッ!」
携帯電話の音が鳴った。
「それ、それ、いらなそう!よし決めた。この世界から電話を消そう。」
悪魔は続ける。
「最後に誰かにかけないの?電話。」
僕は、携帯電話の電話帳を勢いよくスクロールした。
最初に思い浮かんだのは父親。
だけど、すぐには電話をかける相手が思い浮かばなかった。
朝目覚めると、胸を掴んで無事を確認した。
路面電車で移動して、今日は郊外にいく予定になっている。
電車を降りた道路の向こう岸、真っ白で童顔な女性が立っていた。
彼女が近寄ってきて、
「どうしたの、突然。」
と詰め寄る。
「た、たとえば…例えば世界から電話がなくなるとして、電話をかけたい相手を考えたんだ。」
しどろもどろに僕は答えた。
「ふう…例え話にしないと、物事が考えられないとこ、変わらないね。それで私に(電話)かけてくれたわけ。他にいるんじゃない、最後にかけるべきひと…。」
喫茶店に場を移し、彼女は続ける。
「で、昔の彼女と会ってどうするの?」
「あ、いや、ごめん、特には考えてないんだ。電話がしたかっただけだから。」(どうやら、電話で彼女とアポをとって会っている様子。)
僕は俯(うつむ)きながら、何とか答えた。
「ね、何さっきからモゴモゴやってんの?…ふふっ、ふふふふ、別に謝らなくていいよ。」
「何だか電話したくなって。」
「電話ね、何だか懐かしいね。」
対面で話すのが苦手で、電話が好きだった僕を思い出すように彼女は笑う。
〜彼女との回想〜
彼女と僕は、大学生のときに映画がきっかけでそういう関係。
デートを振り返り彼女は言う。
「電話だとあんなに話すのにね」
対する僕は、
「電話だと緊張しちゃって」
「だから私、あなたとの電話がすきだった。デートして家に帰ってから電話で話すの。」
「歩いて20分の距離に住んでるのに、4時間も5時間も電話して、会った方が早いだろて感じだったよね。」
電話のときなら僕も饒舌だ。
「一晩中電話して、次の日のデートは2人して寝坊して、電車乗り過ごしたよね。電話するためにデートしてたくらい…楽しかった。」
「なのに…何で別れちゃったんだろう、僕たち。」
「私たちはお互いを嫌いになって別れたわけじゃないだろうし、でもあるんだよ。そういうの。」
そう言うと、彼女は席を立つ。
「どこいくの?」
心配そうに彼女に目線を送りながら声をかける。
「トイレ。」
〜回想おわり〜
店を出て別れ際、彼女は言った。
「世界から電話は消えて欲しくないな。電話がなければ私たちは出会わなかったわけだし。」
僕は、帰途につく。
「で、そろそろ電話消しちゃっていいかな?」
突然現れた悪魔がささやく。
直後、携帯電話が溶けゆくように消えた。
僕は路面電車を飛び出し、彼女の勤務先へ一目散に駆ける。
勤務先の入り口で彼女を見かけた。
勢いそのままに、腕を取る。
「な、なんですか?」
彼女は怪訝な顔つきで僕を見る。
その場を離れると悪魔が視界に入った。
「彼女に何をしたんですか。」
「何かが消えたら人との思い出も消えちゃう。当然だろ?1日生き延びたんだからいいじゃない。で、次はこれを消そう、映画。1日の命と引き換えに。」
僕の表情は曇る。家に帰ってキャベツを撫でながらも。
「こうやって何かを犠牲にしながら、1日1日を生き延びていくのだろうか。」
〜タツヤとの回想〜
「人生は近くから見れば悲劇だけど、遠くから見れば喜劇だ(チャップリン)」
講義室に階段状に並んだ机の上に、DVDのケースを置きながら言ったタツヤの言葉。
そして、次の作品まで用意しているらしい。
「映画は無限にある。だからこのやりとりは無限に続く。」
「何だかTSUTAYAみたいだな」
僕は、思わずこう漏らした。
「タツヤだ。」
すかさず、訂正を入れてきた。
〜回想おわり〜
「あのさ、例えばだけど、ツタヤなら死ぬ前に一本映画を見るとしたら、何の映画観る?それを貸してよ。」
僕は、最後に観たい映画を探す。
「選べるわけないだろう。きっと選んでいるうちに死んでしまう。」
そして、またあの時間がやってきた。
「あの、やっぱり消すのは映画じゃないとダメですか?」
悪魔に勇気を振り絞って尋ねる。
「何言ってんの?もう消えたよ?」
ツタヤならぬタツヤのもとへ向かう。
そこは、レンタルDVDがあったスペースが書籍へと様変わりしていた。
「何かお探しですか?」
そして、“映画”がなければ出会わなかった僕とタツヤは、どうやら既に他人らしい。
世界から僕が消えたなら、誰が悲しんでくれるだろうか。
さて、途中からは映画に込み入りすぎて、解説が間に合わなくなりました(笑)
この時点でまだ半分くらいです。
佐藤健と宮崎あおいと、演技派によって制作されたこの作品、ぜひみなさんの目で最後まで見てみてください。
映画が伝えてくれる優しいメッセージもありますが、それを差し置いても、自ら強く“自分の存在”を再考してしまう作品です。
いろいろ、惹かれるフレーズもあります。
「人間が猫を飼ってるんじゃなくて、猫が人間の側にいてくれている。」
「僕がいたからこそ、この世界は変わったのだと信じたい。」
そして、最後には、頑固オヤジが僕が生まれてきたとき、一言だけ僕に声をかけるシーンがあります。
人の“正義”(≒守りたいもの)はいろいろな捉え方があると思える作品だと思います。
生きること、存在があることを生、稀、尊など様々な観点から考えてみてください。
そのことを、1時間40分で感じられる作品です。
猫、佐藤健、宮崎あおい、と筆者の趣味が強いこともありますが(笑)、ぜひご視聴まだの人、久しぶりに観てみようという人は、ぜひ観てみてくださいね。
難しいこと考えなくても、シンプルに猫も可愛いですよ(笑)
あ、申し遅れました、冒頭の『キャベツ』とは作中で登場する猫のことでした。
出典:『世界から猫が消えたなら』川村元気 小学館文庫2014
